魚好きの店主が仕入れたネタの数々
昼食に1時間、夕食には3時間以上かけ、ここ60年近く朝食以外はすべて外食という企画集団・知性コミュニケーションズ代表、小石原昭さん。「自分のからだは自分が一番よく知っている」と、お仕着せのコースや定食は頼まない。簡素でも、そのとき自分が食べたいものを食べる。一流料亭もグルメ本が名店と評する老舗も一刀両断。あらゆる店を知り尽くし、自分の舌で判断していることがわかる。
そんな小石原さんのおすすめは東京・経堂の「鮨処喜楽」。「けれんなく当たり前のネタを当たり前に食べさせてくれる。それに客筋が落ち着いている」。東京湾子安産のアナゴ、赤玉の卵と芝エビのすり身の卵焼き、米は岩手のひとめぼれ、酢は横井醸造工業の赤酢…。元総合雑誌の編集長だけあって、今回紹介するにあたってわざわざお店に取材したそうだ。
小石原さんが初めて訪ねたのは2年半前。市外局番がかつての3ケタで書かれた古い看板と、ちょっとのぞいた店内のモダンなたたずまいのギャップにピンときた。「初めての店は外観で決める。勝率は8割」。木を巧みに生かし落ち着いた内装は空間デザイナー、近藤康夫さんが手がけた。
「軍艦巻きでない、昔ながらのきちっとした握りのウニをみればわかる。軍艦巻きはノリの量とウニが合わない」。好物の蒸しアワビも絶品で、先々代から受け継いだアナゴに塗るツメもうまいという。
昭和12年創業で、いまのご主人の太田龍人さんが3代目。水族館で働くのが夢だったほど子供のころから魚好きで、いい魚に触れたいあまり、高すぎる魚を仕入れて怒られたこともある。「たとえば、築地にいいタイが10匹しかなければ、1匹でも半身でもいいからうちにあるようにしたい。どうしたらおいしいすしになるのか、日々努力精進している。この時期はマコガレイ、マイワシ、トリガイ、アワビなどがおすすめですよ」と話す。
趣味は釣り。「漁の現場と食べるお客さん、どちらにも一番近い距離にいたい」。そんな思いは間違いなく客に通じている。
出典:MSN産経ニュース